01福岡市内・従業員20名規模の現場で起きていたこと
福岡市内、従業員20名規模。地域ではそれなりに名前の知られた会社だった。 ただ、実際に現場に入って見えてきたのは、 「DXが遅れている会社」というより、「人間の体力でギリギリ維持されている会社」に近かった。
社長は50代で、営業も、採用も、クレーム対応も、売上管理も、夜間の連絡まで自分で受けていた。 現場責任者は40代後半で、LINEは深夜まで鳴り、休日でも電話が来る。 事務スタッフは、WordPress更新・請求処理・問い合わせ対応・画像整理を一人で兼務していた。 本来であれば、それぞれ別職種でも成立する業務だ。
「AIを導入したい」というご相談だったが、実際に見えてきたのは、AI以前に、人間側の余力が限界に近いという現実だった。
02「人手不足」ではなく「中核人材の枯渇」
地方企業では「人手不足」という言葉がよく使われる。 しかし実際に現場で起きているのは、単純な人数不足ではない。
高負荷状態を長期間維持できる中核人材の枯渇
地方企業の中核人材は、営業・採用・顧客対応・現場調整・クレーム処理・売上管理・新人教育・ システム管理までを一人で抱えていることが多い。 しかも地方企業は「止まれない」。代わりがいないからだ。
結果として、責任感の強い人ほど自分を削って運営を支え続ける。 そして40代後半から50代に差しかかる頃、 慢性的疲労・睡眠不足・生活習慣病・集中力低下が静かに始まる。 それでも責任は減らない。「DXが必要」という話は正しい。 ただ、現場で起きていたのは「DXを導入する体力すら残っていない」という状態だった。
03WordPress更新1記事に2〜3時間という現実
AI導入への期待は大きかった。 「記事更新を自動化できるのでは」「人が減っても回せるのでは」「ChatGPTで全部なんとかなるのでは」 ― そういった声があった。
しかし現場ヒアリングを進めると、より生々しい問題が見えてきた。 一見ただのブログ更新に見えるWordPressの記事公開は、実際には次の作業をすべて含んでいた。
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画像を探す
素材選定・権利確認まで含む
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画像サイズ調整・ファイル名変更
1枚ずつ手作業
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アップロード・サムネ設定
WordPress側で個別に操作
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本文調整・SEO入力
テンプレなし、毎回ゼロから
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公開後の表示確認
PC・スマホで個別に確認
合計すると、1記事あたり2〜3時間消費していた。 しかも担当者は本業の合間にこれを行っている。当然、更新は止まる。 ただし、誰も「止まっています」とは言わない。 「時間ができたらやります」という空気だけが積み上がっていた。
04属人化 ― 人間が記憶と体力で補完していた業務
さらに厳しかったのは、業務の属人化だった。
1. 誰も中身を説明できないExcelマクロ
作成者は不明で、ロジックを語れる人もいない。それでもこのファイルがないと請求処理が止まる、という状態になっていた。
2. 顧客管理が個人LINEに分散
顧客とのやり取りの一部が担当者個人のLINEに残っており、退職や休職が発生した瞬間に履歴ごと失われる構造になっていた。
3. 問い合わせ履歴は担当者の頭の中
システム化されていないのではなく、担当者の記憶で補完されている。整理されていないのではなく、人間が体力で埋め合わせていた。
この状態にさらにAIツールを追加すると、普通に考えれば現場負荷はむしろ増える。 新しいUI、新しい操作、新しい学習。AIは、使い方を間違えると「最後の体力を削る装置」にもなりうる― これが調査の中で得た最初の結論だった。
05提案の方針転換 ― 「最新AIを入れる」から「人を倒さない」へ
そこで、2週間の調査後に提示した提案は方針を切り替えた。 「最新AIを入れる」ことではなく、「人間の負荷を減らす」ことを目的に置いた。
最初のゴール:「更新担当者が倒れないこと」
「記事更新を自動化する」ことではなく、「いまの体制で1人でも欠ければ崩れる」状態を 少しでも緩めること。最新技術の導入は、その先の課題として切り離した。
改善案は大きく2段階に整理した。第1段階:現場を止めない改善と第2段階:運用を壊さない範囲での整理だ。
06第1段階:現場を止めない改善
まず提案したのは、運用そのものを変えない範囲での効率化だった。 WordPressもCMSも乗り換えない。Next.js化もしない。 「いまの運用を崩さず、今より少し楽にする」ことに目的を絞った。
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画像の自動圧縮 / WebP変換
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サムネイルサイズの統一
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SEO入力テンプレート整備
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記事構成テンプレートの導入
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AIによる記事下書き生成(タイトル案・見出し・本文・SEO説明文・FAQ案)
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投稿前チェックリストの整備
重要なのは、AIに「すべてやらせる」のではなく、「人間が考える前の重い作業だけを減らす」ことだった。 AIによる完全自動化は提案していない。 AIが担うのはタイトル案・見出し構成・本文下書き・SEO文・FAQ案までで、 公開判断は必ず人間が行う ― 現場にそれ以上の余力がなかったからだ。
07第2段階:運用を壊さない範囲での整理
次に提案したのは、属人化した業務をほどく作業だが、ここでも「全部を一気に」整理はしなかった。 整理そのものが体力を使う作業だからだ。 すでに疲弊している現場で「整理するための整理」が始まった瞬間、運用は止まる。
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画像保存ルールの統一
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Excelファイルの棚卸し(誰も中身を語れない資産の可視化)
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問い合わせの分類整理
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社内共有のルール整備
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記事更新フローの再定義
対象は、毎週確実に発生している負荷だけに限定した。 将来のための整理ではなく、「来週も再来週も必ず起きる作業」を狙い撃ちで軽くする。 地方企業に提案する改善は、最初は派手であってはいけない。 続けられないものは、入れない方がいい。
08現場責任者の言葉が、案件の本質だった
最終的に、現場責任者から出てきたのは次の言葉だった。
「新しいことをやりたいわけじゃないんです。
ただ、いまのままだと、誰かが倒れた瞬間に全部止まる気がしているんです。」
この一言が、この案件の本質をすべて言い当てていた。 地方企業で本当に不足しているのは、AIでもDXでもない。
壊れずに運営を続けられる余力
その余力を少しでも取り戻すために、ようやくAIやDXが意味を持ち始める。順番を間違えないことが、地方企業の支援では最も重要なのかもしれない。 AIは現場を置き換える主役ではなく、現場の総負荷を少し下げる補助輪として扱う ― 本案件で私たちが選んだのは、その立ち位置だった。
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「何から手をつけるべきか分からない」「現場の余力が限界に近い」 ― そういった段階からのご相談こそ、私たちが最も得意とする領域です。 現場の体力を奪わない順番で、改善設計をお手伝いします。
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